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男木島と
きゅうかくうしおが出会い
素晴らしい偶然が
むすび、ひらく。
瀬戸内国際芸術祭2025参加作品
きゅうかくうしお新作
「素晴らしい偶然をむすんで」
Concept
Program
Statement
Origins
Profile

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Concept

2年に一度、隔年開催される男木島の大祭。 2025年、瀬戸内国際芸術祭の開催年にして、その大祭の休催年となるこの年、きゅうかくうしおは新たなパフォーマンスを立ち上げます。

男木島は、海や大地への自然崇拝を文化的背景に持つ一方で、現在は島民の約半数を移住者が占めます。

異なる土地からやってきた人々と、島に根ざしてきた営みが交わり、日々のなかにある風景や関係性は穏やかに更新されています。

この重なりあう日々のなかに息づく豊玉姫と山幸彦の伝説、歴史や現在の生活文化、かつての大祭の記憶を手がかりに、3日間の名もなき集いをひらきます。

島の原住民と移住者、芸術祭の鑑賞者、そしてパフォーマンスの観客。「祭り」という人間社会の営みの集積により、偶然に居合わせた人々のあいだに、新たな出会いが生まれるかもしれません。

〈マレビト〉として島に滞在するきゅうかくうしおは、その媒介者として場に身を委ね、瀬戸内の未来に想いを馳せながら内へむすび、外へひらくことを試みます。

Program 

きゅうかくうしお「素晴らしい偶然をむすんで」<ダイジェスト>

Day1  8.8 fri.

三日間にわたって開催される男木島の夏の大祭。その時間軸と構造を踏襲し、きゅうかくうしおのパフォーマンスは展開された。

さまざまな民族≒神々が流れ着いてきた男木島の玄関口、男木港。その港に面して建つ恵比寿神社。来訪神・漂着神とも言われる恵比寿神を祀るその神社の広場に、外様のマレビト・きゅうかくうしおが降り立つ。島民と共に集い、高松行き最終フェリーの船上から来島者に見守られながら、三日間のパフォーマンスは幕を開けた。

Day2  8.9 sat.

高松行き最終フェリーが出航した後、島民と鑑賞者、そしてきゅうかくうしおによって開催。

男木島に伝わる豊玉姫と山幸彦の物語を手がかりとしたパフォーマンスに始まり、島の神々を祀る祠や伝承が残る場所など、島にゆかりのあるスポットを、島民ときゅうかくうしおが共に巡った。オリジナルの担ぎものを奉納し島内を巡るなかで、それに立ち会った鑑賞者もまた新たに男木島と出会うもの。

タイムテーブル

17:00 パフォーマンス@砂浜
17:30〜 島内回遊イベント
19:00頃 鳥居前 再集合
20:00 高松行きフェリー出航

Day3  8.10 sun.

男木島内の家々を訪ね歩き、厄を払う「村まわり」。現在はコロナ禍を経て休止していたこの風習に着想を得て、きゅうかくうしお独自の「村まわり」を行い、島内を巡った。

そして最後に、男木島の海へ担ぎものが奉納される。

Statement

作品について

全ての出会いと別れは、偶然と必然を持ち合わせている。

きゅうかくうしおは踊り子の辻󠄀本と森山が2010年に立ち上げ、2017年の公演を行った後、共に走っていたプロデューサーの突然の死をきっかけとして、テクニカルスタッフなどをも巻き込んだコレクティブとして活動している。
突如生まれた集団としてのきゅうかくうしおは、集団でクリエーションをするとはどういうことなのか、コミュニティとはどのように形成され、変容していくのか、といったことがメインコンセプトとなり、それらを基にリサーチを重ね、パフォーマンスに昇華させてきた。きゅうかくうしおの中でも出会いと別れを繰り返した。

2010年の立ち上げパフォーマンス「素晴らしい偶然をもとめて」に始まり、作品毎に「素晴らしい偶然」をあつめて、かさねて、ちらして、かもして、つないで、きた。

きゅうかくうしおは男木島に出逢う。

瀬戸内海に囲まれた島々は外界から隔てられていながらも、近隣の諸島や四国、本州との交流が保たれることにより、それぞれに独自のふるまいを育んでいる。

外界の存在から持ち込まれる異文化があるものは定着し、あるものは途絶し、その場所の生活習慣や文化は変容してきた。ふらりと現れるそうした来訪者、漂着者の存在を民俗学者の折口信夫は「マレビト」と呼んだ。

マレビト芸能集団・きゅうかくうしおは男木島の祭に焦点をあてる。
祭というものは、際限なく続く日常=「ケ」から、年に幾度かだけ日常から解放される非日常=「ハレ」の瞬間であり、その土地に根ざした労働や生活習慣から生まれる自然への畏敬の念の積層としての祭事であり、さらにまた、長い年月をかけて構築され、変容してきたコミュニティの結晶でもある。

マレビトもまた、祭事や習俗の成立に大いに関わってきた。祭は、その土地にあるしがらみや関係性を溶け合わせ、変容させていく。

祭に内包されている芸能を再考することは、土地に固有の祠や神社に分け入ることであり、ひいてはその土地の身体性、文化、そしてコミュニティを覗き見ることに他ならない。

祠や神社というものは、その土地に広がる自然への畏敬、崇拝の現れであり、さまざまな民族の流入の足跡であると考える。今も男木島の人々に広く親しまれている豊玉姫神社や山幸彦を主祭神とする加茂神社には、はるかなる海洋民族や大和朝廷との交わりを感じさせる。

日本最古の歴史書である古事記や日本書紀に記述されているトヨタマビメとヤマサチヒコの出会いと別れの物語が象徴しているように、いずれの神社も縁結びの神様としての性格を持つ。

男木島に多数ある他の祠も同様である。時代の変動や島内の人間社会の中で取捨されてきた無数の物語。場は私たちに語りかける。

男木島はきゅうかくうしおと出会う。

その偶然の出会いは何をむすぶのか。
年々限界集落となっていく瀬戸内諸島の中、増加傾向にある男木島への移住者と原住民との係(かかずら)い、外様である我々きゅうかくうしおと男木島の島民との係い、瀬戸内国際芸術祭に訪れる鑑賞者、観光客そして、きゅうかくうしおの係い。
全ての係いが芸能によって溶け合い、明日からの生活や関わり合い、次の物語へとひらいていく。
そんなパフォーマンスとして考えていただけたら。

男木島のみなさま、東郷清丸氏、スタッフのみんな、そして関わってくれた全てのみなさまへの心からの感謝と、これからの男木島の繁栄を願って。

きゅうかくうしお・踊り子 森山未來

Origins

トヨタマビメとヤマサチヒコの出会い~古事記より

兄の海幸彦は海で漁をし、弟の山幸彦は山で狩りをして暮らしていました。ある日、山幸彦が兄の釣り針を借りて漁に出たものの、針を海に失くしてしまいます。針を探すために山幸彦は海の神のもとを訪れ、そこで海神の娘・豊玉姫と出会い、二人は結ばれます。

海の宮で3年を過ごした後、山幸彦は釣り針を探しに来た本来の目的を思い出し、海神に相談します。すると魚たちの中から赤鯛の喉に刺さった針が見つかり、山幸彦は兄に返すことに。海神から教わった呪言とともに針を返したことで、兄に勝ち、逆に仕えさせることになります。

その後、豊玉姫は出産のため地上にやって来ます。「決して中を見ないで」と言われていたにもかかわらず、山幸彦はこっそり出産の様子を覗いてしまい、サメの姿に戻った豊玉姫を見てしまいます。恥じた彼女は子どもを残して海へ帰ってしまいました。

残された子どもは地上で育ち、その子孫がのちの初代天皇・神武天皇となります。

男木島の大祭 

男木島の大祭は、女木島と隔年で交互に開催される、夏の恒例行事です。

大祭は3日間にわたり、屋台が奉納されます。初日は島民総出で行う「大鳴らし」、2日目には加茂神社での「宵宮」、そして3日目には豊玉姫神社での「朝宮」が執り行われます。 

Profile

きゅうかくうしお
辻󠄀本知彦と森山未來、デザイナーや舞台技術などのスタッフからなるアーティストユニット「きゅうかくうしお」。

日々係う(かかずらう)ことで生まれるあらゆる現象・感情を創作の起点とし、一人ひとりが自尊心を持ち自立した個の集団として、自由に思考・議論しながら創作のあり方を探り、日常への問いを提示する。

2017年以降は踊り子二人に加え、それまで関わってきたスタッフをメンバーとして、集団およびクリエーションの在り方自体に焦点をあてた作品を発表する。

主な作品に「素晴らしい偶然をあつめて(2017年・原宿VACANT)」「素晴らしい偶然をちらして(2019年・横浜赤レンガ倉庫)」「素晴らしい偶然をつないで(2023年・ストレンジシード静岡 参加作品)」など。

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辻󠄀本知彦 Tomohiko Tsujimoto 踊り子

1977年、大阪府生まれ。 18歳よりダンスをはじめ、2007年にはシルク・ドゥ・ソレイユに日本人男性初のダンサーとして起用された。2011年からは「マイケル・ジャクソン ザ・イモータル ワールドツアー」に参加し、27カ国485公演に出演。2010年、森山未來とパフォーマンスユニット・きゅうかくうしおを結成。NHK2020応援ソング「パプリカ」の振付を菅原小春と共作する。振付提供作品には、土屋太鳳が出演したSia「Alive」日本版MV、「LOSER」をはじめとする米津玄師のMVやライブツアー、MISIAのライブおよびMV、「ポカリスエット」「UQモバイル」のCMなど多岐にわたる。『情熱大陸』にも出演。 近年は、舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」初演でカオナシ役を演じ、NHK大河ドラマ「青天を衝け」オープニング映像の振付、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のオフィシャルテーマソングであるコブクロ「この地球の続きを」の振付を担当した。

www.tsujimoto.dance

森山未來 Mirai Moriyama 踊り子

1984年、兵庫県生まれ。
5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年に文化庁文化交流使として、イスラエルに1年間滞在、Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。
「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。 俳優として、これまでに映画賞を多数受賞。東京2020オリンピック開会式にてオープニングソロパフォーマンスを担当。2022年より神戸市にてArtist in Residence KOBE(AiRK)を設立し、運営に携わる。令和5年度兵庫県芸術奨励賞受賞。24年度神戸市文化賞受賞。ポスト舞踏派。

www.miraimoriyama.com

東郷清丸 Kiyomaru Togo 音楽家

歌とギターを中心にあらゆる楽器の演奏がうたになる。 島を拠点として、着る服を作り、パンを焼き、魚を釣って食べながら「わたしにとって音楽や歌はなんであるか」を探求し制作する。得た経験をもとに書籍やZINEや会報誌も発行。全国各地に同士を探して交流し現地へ赴いてライブや朗読を行う。
ギター弾き語りや喋り、朗読などを交えるソロスタイルのほか、自らスコアを書く楽団編成「東郷清丸匚」とその派生形(彡やト)オーソドックスな3ピースバンド編成「東郷清丸巛」や即興演奏などライブにおける表現形態はさまざまある。

togokiyomaru.com

瀬戸内国際芸術祭2025参加作品
きゅうかくうしお新作
「素晴らしい偶然をむすんで」

■開催日:
2025年8月8日(金) ~ 8月10日(日)

■開催場所:
男木漁港周辺

■アーティスト:
踊り子=辻󠄀本知彦、森山未來
音楽=東郷清丸

■スタッフ:
音響=中原楽 照明=吉枝康幸 舞台監督=夏目雅也 衣裳=藤谷香子 映像=松澤聰 ほのちゃん=石橋穂乃香 宣伝美術=矢野純子 制作=林慶一 シェフ=太田夏来

■主催:
瀬戸内国際芸術祭実行委員会

■企画:
きゅうかくうしお

■協力:
倉敷芸術科学大学 芸術学科 黒川ゼミ

■Special Thanks:
男木島のみなさま、本作品に関わっていただいた全てのみなさま