Research vol.8

ガーデンデザイナー Andy Cunningham
 
ガーデンを作るのはすごい大変なのに咲くのは一瞬。でも、自然は何もしなくてもいつも美しい。僕の考え方は「人間はちょっとやって休む。その間に自然がやりたいことは自由にやってもらう。そしてまた人間がちょっとやって…」と、自然と人間がつくり合うのが良いバランス。

《きゅうかくうしお的醸す》プロジェクトの醸す人リサーチvol.8は、スコットランド出身のガーデンデザイナーAndy Cunninghamさん。イタリアなど数各国でガーデナーとしての経験を積み、5年前から日本で活動するAndyさんに、担当している軽井沢の山を案内してもらいながら話を聞く。人間と自然の関係が作り出す「醸す」とは…

2022.1.30 SUN TEXT BY JUNKO YANO
今日の取材先・離山を舞台にした「暮らしの実験場」である「TŌGE | トウゲ」のプロジェクトのひとつ「野草園」。Andyはここのマスタープランとガーデンマネジメントを担当しているとのことで、この山や野草園について話を聞きたいと思います。
ところでAndyはいつから日本に?それまでのプロフィールも教えてください。
宣伝美術
宣伝美術
矢野 純子
外とデザインが好きで始めた「ガーデンデザイナー」の仕事

ー 17歳で高校を卒業した時、大学で勉強したいことがなかったから、まずはイタリアに行って、ガーデナーとグラフィックデザイナーの仕事をしていた。
外が好きでデザインが好きだからどちらの仕事もすごい好きで、それでガーデンデザイナーになりたかった。

ー 絵を描くのに色の勉強が必要なのと一緒ガーデンデザイナーになるには、植物の勉強が必要だから、アメリカ、フランス、イタリア、スコットランド、イギリス…と色々行って、5年前に日本に来た。
日本語は来日してから勉強した。

ー 園芸とガーデンデザイナーの勉強をして、アメリカでももう一度園芸の勉強をして、ランドスケープのデザインは大学院に行った。
でも外で仕事をする時に一番大切なのは、何かやって、間違えて、またやって、このトライ&エラー。

日本に来た経緯は?
映像 松澤

ー ガーデンデザイナーとしてう有名なポールスミザーさんが、この山と、山の持ち主の別荘の庭を担当していた。友達づてにポールさんを紹介してもらって、手伝わないかと言われた。来た時はこんなに長く日本にいると思っていなかった。
軽井沢に来てバイトして、家の庭の管理を依頼されて、気づいたらずっと日本にいる。

PAUL SMITHER
ランドスケープデザイナー、ホーティカルチャリスト(園芸家)

イギリス、バークシャー州生まれのランドスケープデザイナー。 在日30年。 英国で園芸学とデザインを学ぶ。 1997年に有限会社ガーデンルームスを設立。
目的を踏まえたうえで、その土地の風土や歴史、環境条件に合う植物や材料を使うことを基本に、デザインおよび植栽プランニングを行い、人にも自然生態系にもやさしい持続可能な環境づくりを目指している。

http://www.gardenrooms.jp

「TŌGE | トウゲ」の舞台である離山と野草園について

ー もともとはカラマツを植林した山。そのカラマツを間引きして、そこに元々いた植物の種を植えているのがこの野草園。
全部のカラマツを一度に切ったらこの山にはショックすぎて、この山にいる虫や鳥や動物たちがびっくりしてしまうからちょっとずつ切っている。「Gentle Transition」が大切。
元々は別の造園屋さんがこのプロジェクトをやっていたが、それをポールさんが引き継いで、やり方を考え直した。

ー 間引いたカラマツは馬が引いて下ろした。馬の脚が土を耕す。イノシシも同じことしていて、土を掘って深すぎるところにある種を上にもってきてくれる。イノシシは森の大切な動物。カモシカや鹿も大切。カモシカたちは小さな木を食べて、鳥たちが種を食べて、間引きしている。もし動物たちがいなかったら全部森になってしまう。

ー 動物や虫が、草木や種を食べて間引きしてくれるのが自然。

なぜ間引きした方が良い?
宣伝美術 矢野
動物が居なかったら全部森になってしまう

ー 動物たちは、森と草地のバランスをより良い状態に保ってくれる。だから私たちは動物と同じ仕事をする。もしここに動物がいたら何もしなくて良い。

ー 半分くらいは元々いた植物や鳥たちが持ってきた種。山の上には昔の植物がまだたくさんいて、そこから種を持ってきて日向ができたところに植えたりしている。

間引く時は動物スタイル

ー 例えばカモシカだったら、この草とあの草を食べる。そしたらカモシカのように上に向かって歩いてその草だけ抜く。ウールの服を着て、草木の種が服に付いたら、10mおきに服についた種を払って落とす。その方がナチュラル。
これがイノシシなら、くわで土を掘る。

人間が関わるけど、できるだけ自然に近い方法で山を戻していくという、そのスタイルはどこで勉強した?
映像 松澤
考え方の違いは良いコラボレーションを生む

ー たぶん、自分で考えた。鳥は簡単に入れるけど、柵があってイノシシや鹿は入れないからナチュラルではないけど。

ー 最初はポールさんのチームで彼のやり方でやってみて、新しいアイデアが生まれたらポールさんに確認して「じゃあやってみましょう」となってやってみる。
働き方や考え方において、我々はとても似ている部分もあるし、一方で少し違う部分もある。だからこそ素晴らしいコラボレーションが生まれる。
その一つの例として、自分は自然の中で動物のように振る舞いその働きを再現しようとしている。

デザインする時はまず設計図を書いて、それを対象の場所に再現しようとするけど、Andyはその場所と一緒に考えている感じがする。
宣伝美術 矢野
人間と自然が少しずつつくり合うバランス

ー 会社の話だけど、ガーデンデザインをするときに「ここにラインを引く、ここは花壇でここは芝生でここはテラス」みたいなことはしない。
人間はユンボとか使ってランドスケープデザインはなんでもできる、ランドフォームをチェンジできる。パワーが大きすぎる。
僕の考え方は「人間はちょっとやって休む、自然が自分でやりたいことはどうぞやってください、それからまた人間がちょっとやって」。この、人間→自然→人間→…が良いバランスだと思う。

相手の力を引き出すことが大事だと。
映像 松澤
良いガーデンも悪いガーデンもたくさん見て、だんだん考え方が変わっていった

ー イタリアに2回目に行って、ルネッサンススタイルの庭園をやった。ルネサンスの庭園は「人間は自然をコントロールできる、自分はお金を持っている」というスタイル。全部決められた同じスタイルを毎年やった。それはすごく面白くて勉強になった。
でも動かない。

ー アメリカに行った時も、大きなガーデンがあってとてもインダストリアルで「これはガーデンじゃないな」と思った。
いろんなところに行って、良いガーデンも悪いガーデンもたくさん見て、だんだんと考え方が変わっていった。
「自然の植物を使いたい」というポールさんからも良いインスピレーションをもらっている。

日本に来てそういう考えになった?
映像 松澤
自然は何もしてなくてもいつもきれい

ー 南スコットランドの山の中で生まれて、一番近い店は車で30分、学校も35分とか。すごいワイルドで、それがすごい良かった。
お隣さんがかわいいガーデンを作っていたけど、鹿が食べに来ちゃう。そのガーデンを見てかわいいなと思うけど、山を見るとHeatherの花が咲いて一面が紫やピンク色になるのを見て、そっちの方がきれいだし簡単だと思っていた。
ガーデンを作るのはすごい大変なのに咲くのは一瞬で終わり。でも、自然は何もしてなくてもいつもきれい。それはずっとあった。

人間にとっての「Natural Disaster」は、Naturalにとっては「Disaster」ではない

ー 台風が来てたまにカラマツが倒れたら、そのまま倒しておく。わざと残しておくと、丸太の下や中に虫が来たり、丸太の下に蛹がいたりする。

ー 台風は人間にとっては悪いことだけど、自然にとっては良いこと。もし台風や噴火や地震や人間や動物も全部無ければ、全部森になってしまう。
人間にとってはNatural Disasterでも、NaturalにとってはDisasterではない。

ー この山も200年ちょっと前に噴火して、草も全部無くなってリスタートした。森は良いことだけど、バランスが大切。台風が来て木が1本2本倒れるのは、毎年のカラマツの間引きと同じ。

人間と環境との関係についてどう考えるか
映像 松澤
Relationship is lost

ー 悲観的だけど、もう遅すぎる。
多分、昔は人間と自然は文化的にもしっかりと関係が築けていた。日本でいうと茶道があったり、昔はいろんな植物をとても大切にしていて、里山では自然と人間のバランスがとれていた。
今でも里山では多くの人たちが伝統的な方法でバランスをとっているけど、人間はどんどん機械を使う方向に向かっている。お金が大事だから「もっと早く売りたい」「全部売りたい」と。
Relationship is lost.

 

どうしたら関係性を再構築できる?
映像 松澤
自然との関係性を再構築するには「教育」と「行動する前に考えること」が大切

ー 1つ目は「教育」。
自然・植物・動物の重要性を、子供たちにできる限り早くから教えること。そうすれば、将来世界中で良いことをしたり自然を尊重できるようになる可能性がとても高い。
最初に「自然は大切」「自分で自分が食べる物をつくってみる」ということを教えるのが良いと思う。

ー 2つ目は「行動する前に立ち止まって考えること」。
例えば軽井沢に家を建てる人の多くは、「まず全部木を切って真っ平らにして、こんな感じで家を建てて庭をつくる」となるけど、「この木や花がとても綺麗でこの景色が美しいから、建物はここにだけ建ててみる。1年経って、やっぱり危ないからあの木は切ってみる、お隣さんの庭からちょっと種を取って蒔いてみる」とか、少しずつ考えるのが良い。

なぜそうすることが大切なのか
映像 松澤

ー 1つは人間と自然との関係を理解するため、2つ目は自然破壊を止めるため。

自然と良い関係をつくれると、我々は何を得られるのか
映像 松澤
自然に触れると人は幸せを感じられる

ー 自然に触れると、人は幸せを感じられる。
以前、学習障害のある人のために働いていた。彼らが植物に触れたり自然の中で働くと、よりうまく通常の生活に適応できた。
植物に触れたりガーデニングをすることで、人はより幸せになれるから、自然に触れてほんの少し幸せを感じられたら、例えば誰かにぶつかられたとしても「大丈夫ですよ」と言える。

ー 怒りは全てに伝染するけど、幸せは怒りを少しずつ取り除いてくれる。
それは人々の幸せのためであり、かつ、私たちがこの自然やこの世界を救うきっかけを与えているからでもあると思う。

自然と自然と向き合ってみたことありますか?
夏の海でビーチで太陽の光にジリジリと肌を焼かれていく中、我慢してむき出しの肌を続けて晒すこと、ぐらいしか僕はちゃんと自然に抗わずに接していないかも知れない。サーフィンやカヤックでは、波や流れ、自然の力に抗って楽しませてもらっている僕は、自然な存在ではない。と、仮定する。

 里山の自然を自然な形で、戻す、、いや、育てている庭師のアンディ。僕たちは2時間止まらずに里山の中を歩きながら話を聞いた。『植林を一気に切り落とすことは簡単だけど、僕らはそれをしない。森が驚くから』それまで存在した木々を突然切り落とすと大地に大量の太陽の光が降り注ぎ、木陰で植物や小動物や昆虫が繰り広げていた誕生と成長と腐敗と再生のサイクルがなくなってしまうという。『台風影響や自然に倒れる木を想像しながら、自然の範疇を越えないように木を間引いているんだ。人は自然災害って言うけど森にとっては、サイクルの起点になる大切な現象なんだよ』人が自然と向き合うことは、人が自然の形を変え続けた過去を精算するためには必要だと言う。それ以外に、人が自然と向き合う必要があるのだろうか?『自然と向き合うと少し幸せになれるんだ、少しの幸せは日常生活に現れて、他の誰かに伝染すると思うんだ。うん、、少し幸せになるって大切だよ』

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松澤 聡
今回の醸す人 Andy Cunningham(ガーデンデザイナー)

スコットランド出身。2017年に来日。これまでイギリス、アメリカ、イタリア、フランスで学び、庭づくりに従事。
スキル・トレーニング:ガーデニング、ナチュラルガーデニング、ランドスケープ設計、ガーデンデザイン、地質学、アーボリスト・ワーク、ルネッサンスガーデンの復元。

https://www.studiokyoryu.com
https://www.toge.art/toge0wildflowergarden

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