Research vol.12

音響・きゅうかくうしお元メンバー
中原楽 
きゅうかくうしおを腐らせないために辞めた。

《きゅうかくうしお的醸す》プロジェクトの醸す人リサーチvol.12は、野外フェスや舞台の音響として活動する中原楽。
彼女は2021年11月にきゅうかくうしおを脱退した。辞めた理由、きゅうかくうしおが醸すには、外からの視点で見るきゅうかくうしおとは…
元メンバーとして、音響として、あらゆる角度から「醸す」についての話を聞く特別回をお届け。

2022.6.19 SUN TEXT BY JUNKO YANO
去年の秋まできゅうかくうしおメンバーだった楽ちゃん。今日は音響における「醸す」の話しや、これまで公にしていなかった脱退の理由、これからきゅうかくうしおが醸すには?など聞きたいと思います。
まずは改めて、きゅうかくうしお参加の経緯や在籍時の活動内容を聞かせてください。
宣伝美術
宣伝美術
矢野 純子

ー 2017年のきゅうかくうしおの公演時に当時のプロデューサーから依頼があり、音響スタッフとして参加したのが始まり。その後、なぜかその時のスタッフみんなできゅうかくうしおと名乗ろう、ということになったのでその流れで参加していた。

ー きゅうかくうしおは、みんなで作品をつくろうと動いていたので、音響に限らず映像作品の監督をしたり、必要があれば他のセクションの手伝いをしたり、作品が良くなるためなら何でもやるというスタンスで活動していた。

2019年の赤レンガでは、舞台で踊ったり歌ったり音つくったりもしてたね。
宣伝美術 矢野
作品的に必要であればやる

ー そういえば「やりたくない」って言ったことを全部やらされた(笑)。でもなぜやったかというとそれをやることで作品的に腑に落ちるところがあったから。

ー 歌に関しては、ハミングのようなものだったけど、元々ともさんが思いついたメロディーに私がトラックをつけるという作業をしていた時に、打ち込みの音とか探ってたんだけど全然しっくりこなくて、「これ歌うべきなんじゃないかな」と思った時に、未來君も同じようなことを言っていて。「やっぱ歌わなきゃ、か」となって。

2019年11月「素晴らしい偶然をちらして」
赤レンガの後は、2020年春のYoutube LIVE「KYUKAKUUSIO AIR」と8月の「地鎮パフォーマンス」。
この2作品で印象に残っていることは?
宣伝美術 矢野
何かつくりたい、つくらなきゃ、という気持ち

ー AIRをやっていた時は、コロナ禍で家にじっとしていないといけなかった時期。あの時みんなそうだったと思うけど、何かやらなきゃと、じっとしていられなかった。
結構楽しんでいたんだけど、家で作品をつくるというのは結構辛かった。

きゅうかくの思い出ってだいたい辛い(笑)。

コロナ前は、何時間もクリエーションしたら「帰り道にご飯買って帰ろう」とか「本屋さん寄って行こう」とかができた。そういう日常の行為がなくて、パソコン閉じたらすぐご飯つくらなきゃ、とか、無駄な時間がなくなってしまったことが辛かった。

ー でも何かつくりたいと思っていたから、必死でやっていて。YouTubeLIVEのパフォーマンス配信後に私はその映像に「音の字幕」をつけた。

あれは面白かった。字幕も作品になっていた。
宣伝美術 矢野

ー これは聴覚に障害のある人向けというわけではなく、音というものを自分がどういう視点で見ているのかを表現するのに字幕って面白いかな、というのがあって。

2020年5月YouTube LIVE PERFORMANCE「KYUKAKUUSIO AIR」

ー 聴覚障害の人にとっては不親切な字幕だったかもしれないけど、こういった情報補償を作品に落とし込むにはどういう方法があるのかをトライしたかった、というのものある。
リモートで作品をつくることも、音に字幕をつけることも、挑戦の連続だった。

ー 8月のYamahでの合宿も「何か作品をつくらなきゃ」というのがあった。
ともさんに「楽ちゃんに早朝の虫の音を聴いて欲しい」と言われて、これは私に何か作って欲しいてことかなと思って、この虫の音の変化を感じられる映像作品を監督としてつくった。

2020年8月「地鎮パフォーマンス」
絵コンテも楽ちゃんが描いて、作品全体の仕切りをして。
宣伝美術 矢野

ー 何か分からないけど、常に脅迫観念にかられて作品をつくっていた気がする。

ー 「きゅうかくうしおに居る意味」を、たぶんみんなも常に考えていて、私にとってそれは「ただ音響をすること」では明らかに無くて、「じゃあ自分は何ができるのかを模索すること」だった。

ー 模索する場がきゅうかくうしお。だから常に何か作ろうとしていた。

きゅうかくうしおでは「●●をしてください」と指示されるより「何をするかから考える」ことが多いかも。
宣伝美術 矢野

ー 他の仕事ではやるべきことが明確。自分だったら音響や技術統括という明確な役割があるけど、きゅうかくではそれがない。「何者でもなさ」が大変だった。

Yamahでの地鎮パフォーマンス後、昨年まで活動をしていたが11月に辞めることになった。その理由を。
宣伝美術 矢野

ー Yamahの直後にも辞めたいという話は一回していて、その時は話し合って辞めなかった。でも休養期間が欲しくて、そのあと数ヶ月はきゅうかくでは活動しなかった。

ー Yamahの時点できゅうかくうしおは飽和状態だった。自分達がどこに向かうべきか考えすぎて分からなくなっていて。
こういう時は外部の人の視点を入れることが良いんじゃないかと思って、BE AT TOKYO と一緒に何かできるんじゃないかとみんなに提案して2021年も動いていたけど、辞める旨を10月にみんなに伝えた。

ー 辞めた一番の理由は、自分の自己肯定感がどんどん下がってきちゃったということなんだけど。私がみんなに「こんなことしてはどうか」と提案したことが、割といつもうまく進まないな、とすごくモヤモヤしていて。

ー そんな時に、未來君から「醸す」というキーワードが出てきて、私なりに「醸す」を考えてみた時に、辞めようと思った。

ー きゅうかくうしおでの私は腐りかけているなと思って。
腐りかけた状態で所属していたところで、きゅうかくうしおにとってほんと良くないと思った。腐る原因がいるときゅうかくうしお自体が腐ると思って、それが一番の辞めようと思った理由。

ー 何で腐りかけていると思ったかは自分でも分からなくて、これは性格的な問題で、チャレンジしていくことがストレスになってしまっていた。

ー 「きゅうかくうしおを腐らせないために辞めました。」というと何かえらそうに聞こえるかもしれないけど(笑)。未來君が「醸す」というキーワードを出してなかったら辞めてなかったかもしれない。

「辞める」という行為が、楽ちゃんなりの「醸す」の作品づくりだと考えると、新しい創作の形・挑戦に思う。体を張って「醸す」を体現した。
宣伝美術 矢野

ー 私がいなくなることが醸すへの第一歩かな、と本気で思った。

実際に楽ちゃんが抜けたことで、私は「ちゃんとやらなきゃ、自分から動かなきゃ」と背中を押された。この醸すリサーチを始めたきっかけもまさにそれ。
宣伝美術 矢野
自分も意識が変わった。楽さんから色々指摘されていたことを今回出来なかったら、本気であかんと思った。
映像 松澤

ー 中にいるときは、外からどう見えているか想像もつかなくて、例えば誰かからきゅうかくうしお面白いねと言われても「何が?何で?」て全然分からなかった。やっててこれは本当におもしろいんだろうかと思っていた。

辞めて外からインスタとかで見たとき「これは興味深いな」と思った。きゅうかくうしおの面白さは「訳わかんないところ」だなと。

ー この「分からなさ」は、中にいると本当に辛いんだけど、外から見てるとその辛さは分からないし、チグハグさや唐突さが面白いんだろうな、と。中にいる側としては唐突では無く流れや文脈があるんだけど。

ー 手つなぎ散歩もいきなりストーリーに上がってきて、それだけの情報だったりするんだけど「何をしようとしてるんだろうか?」と全く分からなくて。「え、醸す?何がしたいの??」て。

ー 何で手を繋いで歩くことになったのか、その説明が全く無いから。手を繋いでる動画じゃなくてそこを知りたいんだけど。発信の仕方が私のニーズに応えてくれていない(笑)

きゅうかくうしおのことを「楽しそうだね、仲良しだね」と見てる人たちが一定数いて、でも確かにそう見える。
きゅうかくうしおを発信するのは本当に難しんだな、と思った。本質部分の情報が抜け落ちていると感じた。

辞めると疎遠になったりもするけど、そんな感じではないんですね。
制作 後藤

ー 私はもうメンバーじゃないんで、とみんなには言っているけど、やっぱり私きゅうかくうしおのこと、めちゃくちゃ考えてる。
「あそこにきゅうかくうしおブッキングしたらいんじゃないかな」とか。ちょいちょい考えていて。

ー 自分が辛かったのもあるけど、きゅうかくうしおを腐らせないために辞めたというのは本当で。今外から見ていて、外の視点が改めて超大事だと思った。
だから私は俯瞰できゅうかくを見て、勝手にきゅうかくのことを考えている。別に誰にも話してないけど。

立ち位置は変わったけど、関係性が変わった感じはしない。
宣伝美術 矢野

ー もちろん嫌で辞めたんだけど、きゅうかくうしお無くなればいいとかじゃなくて、どうしたらきゅうかく面白く続くのかな、という視点はずっと持ってる。

ところで、きゅうかくうしおってどうしたら醸すと思いますか?これ、答えは無いしそれを考え続けることが答えな気はするんだけど。
宣伝美術 矢野

ー きゅうかくうしおは模索することそのもの。答えが出たらきゅうかくうしおは終わる。そういう意味で私は答えが出てしまった。
音響として関わるなら音響の力を100%出したい。ただきゅうかくうしおの中にいると他に考えることが多すぎて60%くらいになってしまう。それは本末転倒だなと思って。
音響として外注できゅうかくに関われるのであれば、それは100%音響として自分の望む形できゅうかくに関われるのかな、と思う。

ー だから、みんながそれぞれどういうスタンスできゅうかくに関わるのかが肝になると思う。自覚的でいることが大事。
いろんなスタンスがあって良くて、それを自覚して作品に昇華できるかどうかのひとつのキーになる気はする。

中では気づけなかったけど、外に出たからそういうことが見えてきた?
制作 後藤

ー そうそう。私は外に出て大正解と思っている。 自分が思っていたよりもきゅうかくうしおって面白いかもしれない、と思っている。何が面白いのかうっすら分かった。

ー 城崎の作品も外から見ていて、「ちょっとこの作品見てみたいかもしれない」ってすごい興味が湧いた。「今までで一番面白いんじゃないの?」って思っている。それは私は初めて外から見たからであって、今までも面白いと思ってもらえてたのかもしれないけど。

ー 城崎のリリースパーティのインスタライブもひとりひとりが自然体で逆に際立っていて、どういう人間なのかが見えて面白かった。
今回つくった作品はまさにそういうことだと思う。ひとりひとりがどういう人間かが出てくるから、そこに期待がある。

ー この作品が、ともさんと未來くん2人だけのパフォーマンスになったとしても、そういうことが根底にあると変わってくるから。私はぜひちゃんと作品にして欲しいと思っていて、だからどこでやるのが良いかを考えている。

きゅうかくの中だけだと悶々とするけど、楽さんとか外の人たちの話を聞くと、モヤが薄くなるというか、視界が広くなる気がする。
制作 後藤

ー 私はきゅうかくうしおを辞めたけど、誰よりもきゅうかくうしおのこと考えていて、だからみんなに勘弁してくれって言われない限りは「関わらない」という選択肢はない。
だから本当に作品を作って欲しい。

では最後に、音響における「醸す」とは?
宣伝美術 矢野

ー 音ってそもそも何もしなくても勝手に醸しちゃう。
あまりにも抽象的で、受け手がそれぞれ音に対して勝手に理解を深めている。
醸すって聞いた時に「匂い」を想像したんだけど「音」も似ていて、醸すって音そのものな気がして。

ー 音響をするとき俯瞰するようにしているのは、私はオペをする時になるべく「醸さないようにしてる」からなんだなと。
自我を音に乗せないようにしたいから。でも勝手に醸してしまう。
それが「私の音」なのかなと。

ー 昔の自分と今の自分を比べた時、昔は今よりももっと感覚でオペレーションしている時があって、それはテクニックが無かったからそうするしかなった。その時の音って荒々しいんだけどもう出せない音だったりして、過去の自分がすごい羨ましい。

ー でも今は確実に過去の自分にはできなかった音づくりができるようになって、音響において醸すとは「成熟する」ことだと思っている。
最近はオーダーに自覚的に対応できるようになってきた。経験と知識が自分のやりたいことに追いついてきてるから。前よりも確信を持ってオペレーションできるようになってきた。

前よりもっと深く考えられるようになった。表面的なものしか見えていなかった・感じられていなかったものの先に、入っていけるようになった感じ?
制作 後藤

ー 成熟することは、醸す=自分の音が出来上がってくる、ということだと思うんだけど、なにしろ自我を乗せないようにしている私だから、成熟することに対して否定的に考えていた時もある。
けど、それを受け入れられるようになったのがここ1年くらい。

ー 自分の感覚こそ大事にすべきと思ってやるようになったら、自分の音響的な世界が広がった気がする。それを自分が自覚して肯定できた時、成長したと感じる。

じゃあどうやって「醸す」ということを楽しんでいくのか、というターンに来ているのかな。

醸すPJを始めてから自分たちをそれまでよりも長い時間、客観視することが出来ていたが、離れてきゅうかくうしおを客観視している楽さんの言葉は刺激的だった。誰に何を伝えるかを意識しながらも、自分らしくいる理由をきゅうかくうしおでは模索してゆきたい。
映像
映像
松澤 聡
「きゅうかくうしおって何?」という疑問が一部解けたような気がした。わからないでままでいいという気持ちもあったが、ここにいる人々は「きゅうかく」という渦の中で、互いに刺激し合い、醸しあってるなと確認できた。私も今後この渦の中に飛び込んで、ぐるぐるぐるー!っと混ざり合っていきたいと思った。
制作
制作
後藤 かおり
自覚的でいること、感覚を大切にすること、これまでの醸すリサーチで得たキーワードとも重なる話が聞けた。「模索し続けるきゅうかくうしおに自分が居る理由」を言葉にしてみながら、新作の実演に向けた模索を続けてみることにする。
宣伝美術
宣伝美術
矢野 純子
今回の醸す人 中原楽(音響)

洗足学園音楽大学作曲専攻シンセサイザー科卒業。スピーカーメーカー、音響会社を経て、2015年ルフトツークにて音響事業部立ち上げ。

【主なサウンドデザイン経歴】
・Rising Sun Rock Festival / TAIRA-CREW
・New Acoustic Camp / stage HERE
・FUJI ROCK FESTIVAL / Pyramid Garden
・Red Bull Music Academy Weekender 「Henrik Schwarz Instruments」
・さいたま国際芸術祭2020 / 梅田哲也 「O回」
・近藤良平×永積崇 「Great Journey」
・チェルフィッチュ×金氏徹平 「消しゴム山」
・森山未來「見えない/見えることについての考察」

https://twitter.com/laq_extragirl
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